院長コラム

2012年08月01日院長コラム

お風呂で浮き輪の使用はやめましょう

最近、スイ〇―バという首につけるタイプの浮き輪による事故が報告されたのをご存知でしょうか。 スイ〇―バとは、まだ首が座っていないかすわったばかりの赤ちゃんの首にまきつけ、水に浮かばせて遊ばせる浮き輪です。
初めてこの浮き輪のことを知ったのは、若いお母さんとの会話から。3か月の赤ちゃんを<どうやってお風呂に入れているの?1人で大変でしょう?>ときいたら、<スイ〇ーバをつけてお風呂いれておくんです。嬉しそうに浮いてます>との返事。 いったいどんなものだろうと、ネットで調べてみて仰天しました。首に浮き輪をつけて浮かせると、体は水の中なので、たしかに首が座っていなくても大丈夫・・・でも、首の位置がずれれば、水の中にずり落ちたり、気管が圧迫されたりするのは目に見えています。<これ、どう考えても危険だと思う。使うのやめよう>とお話ししたら、お母さん<便利なのに・・・>と残念がりながらも素直に納得してくださいました。
それから一年近くが経ちますが、先日スイ〇―バの事故が報道され、また、日本小児科学会の学会誌にも、事故情報が掲載されました。(日本小児科学会HP「No.32 首浮き輪による溺水(PDF)」)いずれも、お風呂で使っていて、ちょっと目を離したすきに水の中にずり落ちてしまったという報告で、2例が掲載されていました。幸い2人とも命に別状はありませんでしたが、発見した時の様子は、顔色は真っ白、唇は紫色で、ぐったりし、水を吐かせてなんとか息を吹き返したような状態だったようです。かなり重症感があり、救急車で病院に搬送されています。1例は、意識が一時なくなっていたこともあり、その後の神経学的な後遺症がないかどうか、経過観察となっています。(商品のHPには、<神経学的な異常はなかった>とさらっと書かれていますが、一歩間違ったら命を落としていた事故です。当事者のお母さんはどれほど恐ろしい思いをされ、また、その後を心配されているでしょうか。)

もともと呼吸機能が弱く、呼吸を止めたりしやすい乳児です。赤ちゃんは、呼吸が苦しくなったときに、大人のように苦しいと訴えることができません。たとえ目を離さなくても、首に浮き輪をして水にいれるのは止めた方がよさそうです。そもそも、赤ちゃんをお風呂やプールにいれるとき、首をもって水に入れるでしょうか?
さらに、お風呂で使うという使い方、これはさらに問題です。お風呂でスイ〇―バを使う目的は、お母さんがご自身の髪の毛や体を洗ったりすることでしょう。髪の毛のシャンプーを洗い流している数十秒の間に、子どもは水の中に鼻までつかって窒息しているかもしれません。

以前から問題になっている、別のタイプの浮き輪も危険です。浮き輪の中心部が座れるようになっていて、足を出す穴が開いているタイプです。この浮き輪を使用していて、お風呂で溺れて亡くなった子どもが何人もいます。後ろ向きにひっくり返って、水の中に頭を下にしてつかってしまい、水死してしまうという悲惨な事故です。すでに発売中止になっていますが、ネットなどではまだ入手が可能なようで、平成21年にも事故が報告されています。やはり、お母さんが髪の毛を洗って目を離している数分の間にひっくり返っておぼれ、呼吸停止、低酸素性脳症によるけいれんまで起こしている事故例です。日本小児科学会のHPから詳細をみることができます。(日本小児科学会HP「No. 4 浴槽用浮き輪による溺水(PDF)」)

小さい赤ちゃんをお風呂に入れるのって大変ですよね。 お母さんが体を洗ったり頭を洗ったりするとき、どうするか、本当に頭を悩ませます。誰か手助けしてくれる人がいればよいけれど、お父さんが帰宅するのが遅くて1人でお風呂に入れているお母さん、ほんとに大変だと思います。
赤ちゃんがまだ自分では寝返りしたりハイハイしたりできないときは、脱衣所のところにマットとバスタオルを用意しておいて、短い時間バスタオルにくるんで待っててもらってもよいかもしれませんね。
寝返りやハイハイがはじまったら、それは大変。そんなときは、お母さんは自分の体や髪の毛は子どもを寝かせてから洗うことにして、こどもと一緒にお風呂から出ちゃいましょう。子どもがぐっすり寝てから入浴したほうが、お母さんの体もきっと休まります。

こういう状況がずっと続くわけではありません。ほんの数年間。当事者のお母さんにとっては限りなく長い時間かもしれませんね。でも、振り返ると、あっという間の日々ですよ。保護してあげなければならない子どもがいるのって、大変だけど、実はとても幸せなことではないでしょうか。(これ、子どもが大きくなって、援助が必要なくなってみると痛感するんです)私も、お風呂の脱衣所で、つかまり立ちし始めたばかりの息子に足にしがみつかれながらタオルで体をふいたことなど、懐かしく思い出します。

人間は水の中では生きられません。これは当たり前のことですよね。危険な場所に小さい子どもをおいておくことは、命に係わる事故につながります。
お風呂の浮き輪は危険です。<正しい使い方をすれば安全・1人遊びはできません>などと商品のHPには書いてありますが、このような注意の仕方では、事故は防げないと思います。便利そうなものが売っていれば、読まずに使ってしまう人も多いでしょう。
危険な使い方をされる可能性のある子ども用の玩具は、販売するべきではないと思います。